はてしなきひらひら

尾ひれが沢山付いてるけれども、言いたいことは、多分シンプル。

「無題」【紙震楼雑記五】

  1

 『腸で考える女』なる海外のSF小説を発見して帯を見た。

 或る女が、手術によって、腸という感覚器官に入って来たもの消化をする過程で、これまでなかった刺激を得て生きる「腸人間」(此の訳を思い付いた訳者は非常に得意げなのではないか、と思う)となる。代わりに脳には只管電気信号を送られ続けており、これによって可能性を最大限に利用して、脳が「目覚める」のを待つ。

 読んでみたかったが時間もなかったので本棚に戻した。

 勿論これは、私の夢での話である。

  2

 その隣に、白いカバーに横書きのタイトルがグルグルと、厳重にくるめられた梱包材の様なデザインの本を見付けた。

 心理学の本らしく、英語のタイトルだったが、内容は日本語に訳されていた。

 其処には、史上初めて霊長類で雌雄同体の「個体」の写真が紹介されていた。黒い、胎内のエコー写真で、何れの顔も正面を向いたヤヌスの様な、丁度二人三脚でもしているかのような男女の結合双生児が、壺か甕の様な白い囲いの中にごった返していた。

 これが如何して心理学の本に載っていたのか分からなかったのだが、何とか読めた文章の中に書いてある事には、これは心理学の実験の賜物で、『念ずれば叶う』と言う事が是によってはじめて確認された例なのである、とか、そんな事が書いてあった。

 明らかに胡散臭く、フェイクであろうと思ったが、全く、こんな絵を載せようと思ったものの気が知れなかった。

 当然、此の本も、夢の中に出て来た一冊である。

  3

 自分は何故だかテレビクルーの一員として、彼方此方を回らなければいけなくなっていた。

 次の取材先では、もう20年前に業界から姿を消した、伝説のギャグマンガ家の自宅で、行ってみると、本当に物凄いアパートだった。場所は大学近所のH……という場所だった。

 建物は、住宅地の中でも一際異様な、山間部に放棄された集落に残された作業場の様な外見をしていた。二階に登る階段は、踊り場がすっかり抜け落ちてしまって、廊下も床板が腐って殆ど無いような有り様だった。

 ディレクターの一人が大声を上げる。すると、長い竿の先端に付けたカメラがするすると天に昇って行った。自分の視点はそのカメラの先に移動した。

 マンガ家は二人いた。何れももう、髭面の汚らしい、Tシャツとハーフパンツ姿で、床屋にも風呂屋にももう何カ月も言っていない様な、只管醜い男たちだった。

 そんな二人が同じ部屋にいて、日々の糧を得る為にモルモットを繁殖・飼育していた。今日はその出荷日で、今日の売り上げで8000円は固い、と喜々としていた。

 そんな、いつの時代に生きているのか分からないような事を云う男達は置いておいたとしても、モルモットの餌代やら家賃やらは、一体どうやって賄っているのかとても気になった。

 男達は部屋の中に畳を積み重ねて、本州の中央に聳える山岳地帯の様に部屋を二つに仕切っていた。そして、其の立体的な空間で其々、山の彼方と此方とに分かれて暮らしているらしかった。

 もう、其れで20年も経つらしい。気の遠くなるような思いがした。

 けれども、何故、モルモットなのだろうと思った。確かに、肉は食えそうだが、マンガはもう描かないのだろうか、ととても気になった。けれども、男達の太った体を見ると、そんな質問さえしたくなくなった。

 自分達はおしまいに、男達にお礼に、と近所のスーパー銭湯の回数券を渡して現場を後にした。男達がどうして同居を始めたとか、そんな理由なんかは聞かなかった。

  4

 家に戻ると、疲れて其の儘、ベランダで寝てしまった。干してあった布団を取り込もうとして、面倒臭くなって、そこそこ綺麗に思われた床に敷いて、其の上に寝そべった。バスタオルを毛布がわりにして寝転がっていると、床と同じ高さに、大型トラックの運転席があった。向かいの駐車場に、若くて確りと髪を整えた、作業服とでもいうのだろうか、兎に角上下揃いの丈夫そうな服を着た男が、運転席の後ろの座席で横になろうとする前に、取引先か何処かと電話をしていた。不図自分はそんな男に好感を持った。矢鱈と頬の辺りの皮膚が丈夫そうなのがいかにもと思った。

 

 自分は其の儘寝てしまった。夢の中で、乱歩の『パノラマ島奇譚』のⅰfストーリーを見た。自分が主人公と、パノラマ島を訪れた明智小五郎の二つの視点を往ったり来たりするのだったが、その内、パノラマ島には台風が接近していて、富豪に成りすました男の野望も、遂に大洪水を前に何もかも滅んでしまった。探偵の出る幕もなく、皆が強制的に夢幻の世界から放逐されてしまった。

 自分も、その夢を最後に、目が醒めた。

 

   九十五