はてしないひらひら

尾ひれは沢山付いてるけれども、言いたいことは、多分シンプル。

本町

 

 県庁での用事を済ませた後、帰る前に一服しようと思ってベローチェに入ったら、鈴谷がいた。

 一瞬、何故と戸惑ったが、案外、平日横須賀からも来るのかも知れない、と思って気を取り直して、入り口近くの丸テーブルの上に荷物を置いた。然し、落ち着かなかった。勿論、自分以外に誰も気が付いてはいない。当然である。そんなもの、現実にはある筈がないからである。

 にも拘らず、其処に鈴谷は居て、カップと皿が前に一つずつ、空になっていた。本人も、別に何も気にしている素振りはない。ただ、只管カウンターの上に置いた手元の画面を眺めていた。

 アメリカンコーヒーを頼んだ事を後悔しながら、自分はチーズケーキも追加で頼もうか真剣に悩んだ。相変わらず、冷めた顔して鈴谷はイヤホンを耳に挿して、スマホを画面を叩いていた。ガラケーではないのが、流石、二次創作とは違うと思った。

 寝る前に、同人誌やSSばかり読んでいた所為かも知れないが、自棄にディティールが適当だった。ただ、そもそも自分は鈴谷がどんな女子高生だか知らなかったし、其れ以前に、「艦これ」で一度も遊んだことがなかった。尤も、戦闘美少女はあんなに野暮ったかったかしら、と思ったが、現実ならそんなものだろう、と直ぐに納得した。それに、場所も場所である。重火器なんて持ち運べる様な土地じゃない。

 大体、平日の午後に、ベローチェにJKが居る事自体が妙ではないか――とも思ったが、もう四時過ぎだし受験生ならいてもおかしくなかった。気になった事と言えば、其の位だった。結局、コーヒー一杯で我慢して、考え込まない内に自分は店を後にした。

 その後、やっぱり気がくさくさして、大通りを道なりに進んだ。そして、何であんな場所に鈴谷が居たかを考えた。けれども、やっぱり受験生なんだろうという結論に落ち着いた。道は大きく弓なりに反って、左手に県立博物館が見えて来た。弁天橋に差し掛かった時に五時の時報が鳴った。そこで自分は引き返してコンビニに入った。若しかしたら、後を尾けて来てはいないかと期待していたのだった。けれども、やっぱり彼女は尾けて来なかった。其れから直ぐにJKの集団に出くわしたが、けれども、鈴谷の姿は其の内になかった。確かに彼女にスタバは似合わぬと思った。

 結局、歩いた分、余計に腹が減って、東神奈川駅蕎麦屋でかけそばを大盛食べた。其れでも、ベローチェでチーズケーキを食べるよりは安くで腹が満たされた。各駅停車の出発を待ちながら、時計を見てたら、肉の焼ける好い臭いが漂って来た。自分は、あんなぽっちで腹は空かないのか、とJKの身を案じていた。