はてしないひらひら

尾ひれは沢山付いてるけれども、言いたいことは、多分シンプル。

戸山の壁について

 

 今朝方の夢についてである。

 今では「東京駅」と呼ばれる、一帯の地域について、嘗ては「戸山」と言ったそうである。

 「戸山」の後、「戸塚」に変わったそうだが、これは横浜の地名と被ると言うので、再び「戸山」になった。

 訪ねた時、壁になっていた老人からはそう説明された。何故、「壁」なのか訊いたら、「地名に関係があるのだろう」という事で、曰くそんな話を聞かされた。

 

 翁は、家屋の外壁であった。しかし、恐らく元は、「戸」と呼ばれた崖の神霊であったに違いない。宅地造成の為に、元の地形は失われて、また地名も不動産屋の都合で、耳障りの良い言葉に変えられていく中で、老人の居場所は「戸」ばかりになってしまったようだった。

 

 

 夢の後半、隣の空き地の下見に、如何にも不愉快な風体の不動産屋が客を連れてやって来た。

 すると、老人は慌てて彼らを追い返しに飛び出した。尾いて行くと、坂の下には、まだ辛うじて、崖の一部が残っていた。丁度、チーズの一切れの様に薄く、高さも路面から一番高い所で精々、80センチメートルもなかった。

 

 岩を何枚も重ねた様な断面が見えていた。老人はそれにしがみ付いて、何か盛んに喚き立てている様だった。しかし、若い子連れの家族にも、鶏冠みたいな髪型の営業にも、その声は届かなかったらしい。

 とうとう、売却が決まったらしい。ゲラゲラと笑う声に老翁は激怒した。彼は、自身の中から扁たい岩を引き抜くと、先ずは彼らの内、最も不愉快な不動産屋の営業の脳天をそれで打ち砕いた。それはもう何遍も何遍も、執拗に打ち砕いた。その内、ぺっしゃっこになった脳天は、彼の手にする岩と同じくらい、扁たいものになったが、その頃には、下見に来ていた客らは皆、その場から逃げ出してしまっていた。

 老人はその後、寂しげに戸板に戻って行った。自分はかける言葉も無く、その背を見送っていた。