はてしないひらひら

尾ひれは沢山付いてるけれども、言いたいことは、多分シンプル。

ヤンデレ考

  2000年代後半に、専らアダルトゲーム界隈のスラングであった「ヤンデレ」は、アニメ『スクイズ』の一件から、2010年代初頭にかけてじわじわと或る層に水平的に伝播していった、と考えられている。

 語の発生時期自体は、2000年代の前半であると考えられており、原作ゲームが2005年に出た『スクイズ』が、アニメ放送に先んじて、この語を受けていた事は大いに考えられる。

 

 所謂、「鬱」(うつ)、「闇」(やみ)、「メンヘラ」そして「病み」(やみ、闇と同音で屡両者はダブルミーニングで用いられる)と言った価値判断を含みつつ、「ヤンデレ」には「デレ」という要素が付け加えられている。

 所謂「デレ」要素が、然し乍ら、『スクイズ』の(特に最終回の)何処にあるのかについては、以下検討せねばならない事項である。

 

 時同じくして、宝島社の「このラノ」に掲載されたラノベ『みーまー』の書評にこの語を確認出来る。

 思うにこのレビューと作品とは、それ以前の「ヤンデレ」とは異なる意味を語にもたらす要因となった。2007年以前の「ヤンデレ」の用法は恐らく、この頃に乖離したと思われる。

 「ヤンデレ」の「病み」(連音により「病ん」となる)は「ツンデレ」のように、好意の不器用或いは極端な裏返しとしてではなく、キャラクター自身の個性として認められるようになった。既に、物語の開始からヒロインは病気であり、程度の差こそあれ、変調を来たしている。

 

 誤解を恐れずに言えば、今次の「ヤンデレ」とは精神に障害のある人物の、不器用な愛情表現の様子を指しているものと考えられる。感情の自己抑制が出来ないのは元からであって、それは恋い焦がれた所為で余計に甚だしいものになったーーと見るのが、果たして適切だろう。

 だから所謂、伝統的な「狂女」(今昔物語中、安珍清姫伝説に登場する清姫など)のイメージは、今日的な「ヤンデレ」には該当しない。

 とは言え、今次においては、例えばその清姫をモデルにしたゲームキャラを「ヤンデレ」と表する向きも認められる。

 この場合、それは今次の「ヤンデレ」の用法としても、また旧来の作品解釈・評価の流れからも、不適切と筆者には思われたりするのであるが、2010年代中頃からの変遷は後に改めて考察する必要があるとは感じている。